映画を通して「違う世界もある」と提示したい
実際にお仕事をしていて、どんなところにやりがいを感じますか?
作品がどう化けるかまったくわからないところです。思った以上のヒットをすることもありますし、「これは絶対にヒットする!」と思っていてもヒットしないこともあるので、毎回慣れることがありません。これをやったから絶対成功するということがないので、常にフレッシュに考えていなければならないところがおもしろいですね。
あとは、こういう方に観てほしいなと思っていた方に観てもらえて素敵な感想をいただけたり、インターネットのレビューなどで皆さんが「これめちゃくちゃ良かった!」と言ってくださっているのを見ると、とても嬉しいです。
配給作品全体において大切にしていることは何ですか?
差別的であったり、誰かの人権を脅かしたり、それを助長するような作品は配給しないこと。
そして社会の不均衡、不寛容にNOを突き付けるような作品を選ぶことです。
また、「この作品、すっごく良いんですよ!」と心から言うためには、良い作品を嘘のない状態で届けたいと思っています。全然おもしろくないと思っているのに、すごい作品ですよと言うようなことはしたくないです。
お話を聞いて、作品をいろんな視点で見つめることが大切だと感じました。自分の仕事をより良くしていくために、努力していることはありますか?
仕事の場面だけではありませんが、“常に考えをアップデートしていく気持ち”を持つようにしています。こういう意見もあるとなったら怖がらずに受け止める、ということです。
いま世界でいろいろなことが起きていますが、インターネットを通せばそれにフラットな状態で触れることができますよね。それらが全部情報として私の中に入ってきたとき、その人の立場や考え方によって見え方がまったく異なることに気づかされます。大切な軸はありますが、物事を多面的に見て、考えが凝り固まらないようにしていたいです。
公開する映画の時期はどのように決めているのですか?
社会問題を扱っている作品では、「今絶対にこれを公開しなきゃ」というタイミングがあると思っています。たとえば、最近だと6月にパレスチナの劇映画『ガザの美容室』を公開しました。
パレスチナの問題は本当にずっと続いていますが、今年の5月にトランプ大統領が在イスラエル米大使館をエルサレムに移転した関連のデモでは、本当に多くの人が亡くなっています。2014年のガザ侵攻以来、最悪の犠牲者数と言われています。
私たちの多くはマスメディアの報道などから、そこに住む人々は皆、「被害者」として生きているという認識をもってしまいがちですが、この映画は戦闘や死ととともにある、ガザ地区の人々の思いや生活に焦点を当てています。
公開タイミングも大切ですが、様々なテーマの映画を通して「違う世界もありますよ」と提示したいです。特に、学生の方だと、学校や家族という狭いコミュニティの中でがんじがらめになってしまうこともあるかと思いますし。
作品の中にある価値観に触れることで、無意識にこれが普通だと思い込んでいたことに気づかされたり、世の中で起こっていることを改めて捉えなおす機会にもなりますね。
最近自社では、たまたまですが女性の作品が続いています。先日公開した『顔たち、ところどころ』に出演し、共同監督を務めたアニエス・ヴァルダ監督は女性監督の先駆者です。また本作では、炭鉱労働者の村に一人で住む女性や、農場経営をしている女性、湾岸労働者の妻など、さまざまな女性が登場します。
社会における女性の立場に関わる作品は今後も上映していきたいですね。
その他、これからやりたいことや夢を教えてください。
行ったことのない場所に行ってみたいです。映画が色々な世界を見せてくれてますが、実際に体験したいです。まさに『顔たち、ところどころ』もそうですが、知らない場所の知らない人と話して、その人の考え方に触れるのはすごくおもしろいので、旅行は時間を見つけて行くようにしたいと思っています。