日本は女性に厳しい。出産で多くの人が辞めてしまう。家事育児は女性の負担・・・世の中にはいろいろな噂があります。
でも、その噂は本当のこと?
社会の本当の姿を知るために、「データ」の世界をのぞいてみませんか?
みなさんを導くのは、とある業界の企業で人事労務系のお仕事をする、社会人記者の石井真希さん。数字が伝える真実から、社会を理解してもらいたいと思っています。
突然ですが、皆さんは、将来シングルマザーになる可能性を考えたことはありますか?
私の学生時代を振り返ると、結婚するかどうかもわからないのに、 パートナーの死や離婚でシングルマザーになる可能性を考えたことは、ほんの一度もありませんでした。
でも、今や3組に1組が離婚するといわれます。そうであるなら、少なくとも離婚してシングルマザーとなることは、全くありえない話ではないはず。
今回は、そんな「離婚後」について、日本の女子が知っておくべきデータをご紹介したいと思います。
日本が飛びぬけて高い
ひとり親世帯の子どもの貧困率
日本51%、ドイツ35%、フランス25%、アメリカ19%、スウェーデン19%。
この数字は、OECD(先進国がお金を出し合い作っている国際的なシンクタンク)が出しているデータで、大人1人で子どもを育てる世帯(ひとり親世帯)のうち、「貧困」世帯の割合です。
日本が飛び抜けて高いことが、はっきり分かりますね。
ここでの「貧困」とは、国民を手取り収入が一番低い人から、一番高い人までを順番に並べて、ちょうど真ん中の人の収入の半分未満しか収入がないことを指します。
金額でみると、2012年の日本の場合、貧困に当てはまるのは2人家族で年収173万円未満(1月あたり14.4万円未満)、3人家族で年収211万円未満(1カ月あたり17.6万円未満)です。 (厚生労働省「平成25年 国民生活基礎調査」)
働いているけれど貧困から出られない
ひとり親だと貧困になる?
もちろん日本にも、ひとりで子どもを育てながら、安定した収入のある家は沢山あります。だから、ひとり親世帯=貧困ときめつけることは間違っています。
でも、ひとり親世帯の半分が厳しい生活を強いられているのも事実。大人が2人以上いる世帯の子供の貧困率は12.7%なので、一人で子供を育てることが、日本でとても大きなリスクであることはハッキリしています。
ひとり親世帯に貧困のリスクが集中。モヤモヤしませんか?
私自身はこのデータをみると、とてもモヤモヤします。
なぜ、日本で、ひとり親世帯に貧困のリスクが集中しているのでしょうか。なぜ日本だけ、これほどひとり親世帯が厳しい状況に置かれているのでしょうか。
これって、たくさんの子ども達が、子どもらしい喜びや学び、健康な生活を十分得られていない可能性を意味します。 おかしくないですか?
働いても、貧困から抜け出しにくい
なぜ貧困のリスクがあるの?
もしかしたら一人で子供を育てる場合、働くことが難しいのかもしれません。
そこで、ひとり親世帯の8割を占める母子世帯のお母さんのうち、働いている人の割合をみると、8割を超えています。これはOECD加盟国の中でダントツに高い数字です。
つまり、日本のひとり親は働いている。でも、貧困のリスクが、他の国と比べてとても高いということなんです。
背景には、日本では新卒で就職し、その後スキルを着実に身につけていないと、家族を養える仕事を見つけにくいことがあります。
正社員でもパートでも生活は厳しい
また、正社員として働く場合は、残業が当たり前のように要求される場合がほとんどです。
そうしたなか、離婚までは子育てに専念していた女性や、子育てのために残業が難しい女性が新しく仕事を探そうとしても、いい仕事を見つけるのは本当に難しい。パートなどをかけもちして生活をせざるを得ない、そんなケースは珍しくありません。
そのほかにも、日本では、「パートやアルバイトは生活に困らない学生や主婦がやるもの」と思われてきたので、非正社員の待遇が正社員と比べて低いままに止められてきた、ということもありそうです。
離婚した親と子どもに厳しい日本
養育費を払わない男性が多い!
日本の制度も、離婚した家族に厳しいです。
厚生労働省「全国母子世帯等調査」2011年によれば、離婚した母子家庭のうち、実際に子供の父親から養育費をもらっている割合はたった2割。
さらに、労働政策研究・研修機構「第2回子育て世帯全国調査」2012年によれば、離婚した父親が年収500万円以上でも、その74%は養育費を支払っていません。
ちゃんとした収入を得ていても、養育費を支払わない男性が大多数だというのは、あまりにひどい事実です。
生活保護は受けられる?
生活保護はどうでしょうか。
2011年に生活保護を受けている母子世帯の数は11.3万世帯。「全国母子世帯調査」によれば、母子世帯の数は推計123.8万世帯。
つまり母子世帯のうち生活保護を受けているのは、9%。残りの91%は生活保護に頼っていないんです。
ほかの国ではなんで貧困率が低いの?
日本以外の国はどうなの?
こんな状況は、他の国ではまったく当たり前ではないんです。
欧米主要国では、国が養育費の立て替え払いを行う制度(後から、離別した親に養育費を請求)、国が養育費の取り立てを代わりにしてくれる制度があるそうです。
例えば、スウェーデンでは、離婚した親が養育費を払わない場合は、社会保険事務所が肩代わりして手当を支給します。社会保険事務所はのちほど養育費を支払う責任のある親に請求し、支払いを行わない場合は強制徴収も行われます。
欧米では生活保護は当たり前!
そのほかにも、欧州諸国では社会扶助(日本の生活保護にあたります)があり、資産などの要件を満たして、さらに扶助を受ける条件としての就職活動や職業訓練の受講などをすれば、きちんと最低限の生活は保障される国が多いようです。
例えば、『ハリーポッター』の著者であるJ.K. ローリングは、イギリスでシングルマザーとして生活保護を受けながら、素晴らしい小説を書いたことでも有名ですね。
現在、イギリスの制度は当時と変わっていますが、要件を満たせば最低限の生活が保障されるという原則は変わらない。
そうした状況だからこそ、一時的に苦境にあっても、その優れた才能を花開かせることが出来たのだと思います。
日本の女子がとるべき戦略は?
日本の社会や制度は、シングルマザーに厳しすぎる。
「働け、働け、でも、いい仕事はほとんどないよ。養育費の面でも海外みたいには助けないよ。最低生活も保障しない」、こんな感じです。
ひとごとじゃない!
それは女性と多くの子供たちの未来に影を落としている。
私は、すべての女性がこの問題を、「ひとごとじゃない!」と感じることが大事だと思っています。特に、これから社会に出る皆さんには、ぜひ、今回ご紹介したデータを頭の隅において、将来を考えてほしいです!
参考
(資料)なぜ離別父親から養育費を取れないのか
養育費の問題については、労働政策研究・研修機構の周燕飛研究員のコラムが分かりやすいです。
http://www.jil.go.jp/column/bn/colum0228.html
(資料)養育費の履行確保
また、諸外国の養育費に関わる制度については沢山の資料がありますが、公益社団法人家庭問題情報センターの資料が全体像を知るのに便利です。