自分の理想や目標を共有できる企業を見つけ、仕事をする。それができたらどんなに素敵でしょう。今回は株式会社LIFULLでそれを実現した龔 軼群(キョウ イグン)さんにお話を伺いました。上海出身の在日中国人であるキョウさんは外国籍の方の入居に関する課題を解決したいという思いを胸に入社。今でもその思いを強く持ち、幅広く活動されています。パワフルなキョウさんの物語をご堪能ください!
目標を目標で終わらせない!
今のお仕事を教えてください。
私は「選択肢の不平等を解消すること」を目標に不動産ポータルサイト「LIFULL HOME’S」で住まいの選択肢の不平等を解消することを仕事としています。不動産ポータルサイトは不動産会社が所有・仲介する物件情報がひとまとめになっているWebサイトです。
私は中でも住宅弱者※とそういった方々の相談にも親身になって対応してくれる不動産会社や適切に接客するノウハウを持った不動産会社とを繋ぐ『ACTION FOR ALL / FRIENDLY DOOR』と呼ばれるサービスを企画し、事業責任者として働いています。
※住宅弱者・・・様々な理由で大家さんからリスクが高いと判断され、家を借りるのが難しい方々を指す言葉。外国籍の方やLGBTQの方、生活保護受給者だけでなく、高齢者やひとり親家庭、障害者の方なども含まれる身近な社会問題の一つ。
働く姿勢にとても熱意を感じます。新卒で入社されたとお聞きしましたが、就活の時から不動産に関わりたいと考えていらっしゃったのでしょうか。
就活当初は「日本と中国をつなげるんだ!」というモチベーションのもとに商社ばかり受けていました。なので不動産関連の会社を受けようとは思っていませんでした。でも「住まいに関する選択肢の不平等」を感じていなかったわけではありません。学生時代に従姉妹の部屋探しを手伝い、外国籍であるというだけでいかに部屋探しが難しいかを実感し、これは問題だと感じていました。
今の会社にはどのように出会ったのですか?
学生とベンチャー企業をマッチングする企業で開催されたセミナーがきっかけです。そこでネクスト(現LIFULL)の「住まいの領域の不を解決する!」という企業姿勢を聞いて、「この会社なら私の感じている『住まいに関する選択肢の不平等』を解決する仕事ができるかもしれない」と気がついたんです。仕事の概念が変わりました。「社会課題の解決を仕事にすることを理念にした会社」という存在そのものが私にはすごく刺さったのです。
総合商社に行きたくて全落ちした時は本当に路頭に迷ったくらいに落ち込みました。他業種の企業にエントリーシートを送ったら、中国人の採用はしていませんと返ってきたときもあって、めちゃくちゃ悲しかったこともありました。確かに辛かった時期はあるし、とても落ち込みました。でも周りと比較しても仕方ないな、と。ネクスト(現LIFULL)の セミナーに参加してからが本当の就活のスタートでした。
ネクスト(現LIFULL)と出会ってからどのように動かれたでしょうか?
ネクスト(現LIFULL)に伺い、外国籍の入居差別問題を解決したいという思いを人事の方に伝えると、人事の方はしっかり話を聞いて共感してくれました。そして「確かにあなたは経験したかもしれないけれど、実際のところはどうなのか」と聞かれました。確かに当時は実態調査がなく、資料もありませんでした。そこで私は直接、地元の不動産会社を回り、外国籍の方に対する不動産会社の対応に関しての実態を調査し、その結果をまとめて提出しました。最終面接の段階ではそれを新規事業の企画として代表にプレゼンしました。他から内定も出ていたのですが、そのときにはネクスト(現LIFULL)の選考に本気になっていました。自分の感じている問題にちゃんと向き合って話をしてくれる企業があるということは私にとってはとても大きいことでした。プレゼンの最後には代表から「おもしろい!応援する!」と言っていただきました。
では、入社後にその事業に携われたのですか?
新卒のときに挑戦した新規事業立案コンテストで企画は通ったのですが、立ち上げメンバーには加わることができませんでした。入社後は営業部に配属され、まずは社会人として一人前になること、そして目の前の目標をクリアし結果を出すことに集中をしました。
そこから今のキャリアに辿り着くまでに、どのようなことがあったのでしょうか。
営業にいた4年間で成果が少しずつ出せるようになり、周囲からの信頼を得て、仕事を任せてもらえるようになりました。でもやはり入社当初の事業立案に加わることができないまま、事業縮小になってしまったことへの悔しさがありました。そして今一度「私は何のために入社したのか、仕事を通じて何を実現したいのか」を自分の原点に立ち戻って考えてみると、「事業を自分でつくれるようになりたい」という思いが強くあることに気づきました。そこで、プロダクトをつくるスキルを身につけるために営業職から企画職に転身しました。企画ではアプリの開発や国際事業部でのサイト立ち上げなど、さまざまなプロダクトやサービスの開発を経験しました。そして住宅弱者の課題に再チャレンジしたいと考え、改めて新規事業立案コンテストに応募し、自分の手でACTION FOR ALL / FRIENDLY DOORの事業を立ち上げることになりました。
会社でもNPOでも同じ課題に取り組むパラレルキャリア
NPOでも代表をされていると伺いました。どのようなことをされているのでしょうか。
認定NPO法人 Living in Peaceでは「すべての人に、チャンスを。」というビジョンを掲げ、機会の不平等を通じた貧困削減を目指して活動しています。難民の方々への就労と自立の支援、社会的養護の子供たちの進学・キャリア支援、途上国を中心に金融アクセスを広げる取り組みなどさまざまな切り口で活動していますが、私にとってのゴールは同じです。機会の不平等が貧困を産んでいるという現実がある中で、「機会の不平等を是正していくこと」を目標に、住まいの領域はLIFULLで、教育や就労・キャリアの領域はNPOで取り組んでいます。
私は「FRIENDLY DOOR」の事業責任者でありNPOの代表でもあります。パラレルキャリアで自己実現をする、自分の人生をかけてやりたいことを実現する選択肢にこういった方法もあるのだということを、これからキャリアについて考えている人たちに 是非知っていただけたら嬉しいです。そして自分がそのモデルとなって伝えていけたら良いな、と思っています。
パラレルなキャリア形成をするにあたって大切なことはなんでしょうか。
まずは社会人としての一歩を踏み出してみてください。ちょっとでも興味のある業界や職種の中で、自分のことを理解しようとしてくれる人や場所を探してみてください。社会人として働いてみると、おのずと自分の得意不得意などがわかってきます。そのときになって興味関心が別にあると気づいたのなら、そのタイミングから新しいことをはじめてみればとよいと思います。最初からあれもこれも、だとパンクしてしまうので、社会人に慣れたところで自分の好きなことや興味のあることに時間をちょっと費やしてみてください。
営業時代は怒られるくらい残業をしていた私ですが、今はNPOの活動を両立させるために本業の残業は最小限にしています。今日やるべきことと明日でもよいこと、物事の優先順位づけが上手になり、この仕事は他の人に渡すなど取捨選択も早くなりました。パラレルワークをすると、時間の使い方が鍛えられていきますよ!
興味のある業界や職種 、理解してくれる人や場所はどこかと探している学生も多くいると思います。そんな女子学生へのアドバイスやメッセージをいただけますか。
とにかく動くことです。特に、自分の関心事と関連する人を見つけ、会いにいくのが私のおすすめです。まずはネットで調べてみてください。たいてい誰かしらがセミナーやワークショップをやっているのでそこに参加してみてください。NPOだったらボランティア参加したり、見学させてもらうのもよいでしょう。
そうやって動いていく中で「これだったらこの人を紹介するよ」と人との繋がりが広がっていきます。オンライン化が進み、「いいセミナー見つけたけどアメリカ!参加できない!」みたいな事態は減りました。今、インプットはとてもやりやすい時代だと思います。その一方で、会えなくてもいろいろできてしまうために人と会うことが難しくなっている面もあります。パンデミックの収束後、オフラインとオンラインがどう混ざりあっていくのかはわかりません。それでも私は自分から積極的に人と出会うことは大切だと思います。社会は人が集まってできているので、いろんな人に触れてみる。あ、この人合わないなみたいなということも、もちろんある。でもそれでいいんです。どんな出会いも自分の行動から生まれます。まずは調べてみてください。すべてはそこから始まります。
取材を終えて
落ち込んでもまた前に進む。行動をやめない姿勢、その上にある龔さんの姿はとてもかっこよく、勇気をもらえました。私も今ある熱意を大切にオフラインとオンラインを使い分けて行動力を上げていきたいと思います。龔さん、とても楽しい取材をありがとうございました。
写真提供:龔さん
LIFULLは「あらゆるLIFEを、FULLに。」をコーポレートメッセージに掲げ、個人が抱える課題から、その先にある世の中の課題まで、安心と喜びをさまたげる社会課題を、事業を通して解決していくことを目指すソーシャルエンタープライズです。主要サービスである不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME’S」をはじめ、空き家の再生を軸とした「LIFULL地方創生」、シニアの暮らしに寄り添う「LIFULL介護」など、この世界の一人ひとりの暮らし・人生が安心と喜びで満たされる社会の実現を目指し、さまざまな領域に事業拡大しています。
機会の平等を通じた貧困の削減を目指して、子ども・難民・マイクロファイナンスの3つのアプローチで活動している認定NPO法人です。認定NPO法人Living in PEACEマガジンからはLIPラヂオの時間というラジオ番組が無料で配信されています。そこからも龔さんのお話を聞くことができます。10分ほどで聞きやすいのでぜひ聞いてみてください!