さばさばとして大らかに質問に答えてくださった、株式会社INAXの山形美紀さん。
一児の母でもある山形さんは現在、住器事業部(お風呂、キッチン、洗面、給湯機を扱う部署)で、システムバスルームユニットバスの販売促進の制作企画を担当している。ユーザーに向けたプロモーションや社内的に商品販売戦略を浸透させる仕事だ。販売促進政策企画の担当になる前は、10年以上広報を担当していた。そろそろ異動したいと考えていた頃、出産で産休を取得することになった。本来なら、産休前の部署に戻るのが原則ではあるが、復帰のタイミングで部署の異動を実現した。
新入社員時代から、仕事と子育てを両立する現在までの道のりをたっぷり聞かせていただいた。女子学生の参考になる話が盛りだくさん!お楽しみに。
復職をきっかけに部署の異動を実現
復職後の配属先はご自分で希望されたんですか?
希望したわけではなく、上司の一存で(笑)。
ただ、復職にあたって上司に希望を訊かれた時に、「今までのINAX歴と、この先も続けて在籍することを考え上で、今後の将来を見据えて私が経験した方がいいと思う部門に配属してください。ただ子供がいるので全国に転勤をするとか出張が多い職場だと難しいので、そこは考慮をお願いします」と要望しました。
辞めようかと悩んだ営業時代
入社してから現在までのキャリアを教えていただけますか?
はい。入社直後はINAX東京販売の設備市場課※で、2年ちょっと営業をして、広報に。約10年強の広報在籍中に出産・育児休暇を取得し、現職に復帰しました。東京販売の設備市場課では便器やお尻を洗うシャワートイレなどをメインに扱っていました。(※当時は販売会社制度をとっており、INAXから販売会社に出向する形で営業していた。)
2年営業をやって広報に行った経緯というのは。
入社面接で、仕事の希望を聞かれたときに、広告宣伝部に行きたいと話しました。それはINAXがお尻を洗うトイレを日本で初めて作ったメーカーでありながら、他社の商品が代名詞になってしまったことがすごく悔しい!だから、広告宣伝をしたいと。ただ、入社してすぐには当然叶わないだろうと思っていましたので、面接官に営業でも良いですか?と言われた時には「はい」と答えました(笑)。そのときも、シャワートイレを売る部門に行きたい、絶対に行きたい!と言ったんですけどね。入社後、先輩にその話をしたら「馬鹿だなぁ~」と一笑されました(笑)。
入社して間もない時期には、市場調査と商品PRを兼ねて、実際に商品を使って下さる水道工事屋さんを一軒一軒回ったこともありました。渋谷区とか荒川区など色んな区のお客様をマッピングして、同期4人でローラー作戦をし、地道な訪問販売のようなことをやりました。
INAXは代理店販売制なので、水道工事屋さんとINAXの間に代理店さんが入ります。その代理店に対して、いかにINAX商品を扱ってもらうか営業するのが本来の仕事なんですね。ただ新人の時は担当がないので、水道屋さんにINAX商品の良さを伝える後方支援をしに行っていた訳です。
半年後には代理店担当となり、自分よりも親の年齢に近い代理店の営業マンたちと同行販売をしたり、予算達成のための実行策を作成したり、クレーム対応をしたり、1年半ちょっとでしたが、まったく成果に繋がらず、自分には能力がなく、向かないのかなぁと真剣に悩むことも多かったんですよ。今考えると、早く先輩のようになりたいと、新人のくせに成果を意識しすぎていたんですね(笑)。
営業を始めて2年経って、30歳まであと5年くらいだから、仕事が自分に合わないなら違う仕事を探した方が良いのかなーと考えたときに、広報に異動する話がありました。当時の広報室長が私を目にかけてくれていたので、女性を広報に入れるにあたって、新卒からとるよりは営業経験がある人間がよいのではないかと、声をかけてくれたんです。
配属先は、広告宣伝部ではなく、広報だった!
当初「広告宣伝部に異動」と聞かされたのですが、行ってみたら実は広報だった。それくらい広報と広告宣伝部って社内でも何をしているところか分からなかった時代でした。
INAXの広告宣伝部は、マスメディア広告や、INAXの大きな広告宣伝媒体であるカタログなどの取り纏めを行っています。
広報の主な仕事としては…。
マスメディアに、INAXの記事を載せて頂くことに知恵を絞る仕事ですね。あとは何か問題が生じたときに、社内を取りまとめて対外的な発表をできるようにするとか。
夢を作って、提供したい
学生時代はどんなことをしたいと考えていましたか?
最初はテレビ番組を作りたかった。ドラマやCMで夢を提供できたらいいな、と漠然と思っていました。でもマスコミは、私が教育実習に行っている間にほぼ9割がたの青田買いを終わらせてしまっており、残りの10%に入れなかった。そこで何か作るものとして考えたのが、一般企業の宣伝部でした。
とはいえ一般企業だったらどこでもOKというわけではなく、入社試験のままですが、母はトイレでものを考える人なんですよ。昔はね、うるさい私たちがいる中で、1人になってゆっくり座れるのはトイレしかなかったらしくて。父は無類のお風呂好きで、歌って楽しんだりする人だったんですね。生育環境を振り返ると、私たちの生活に密着したところなら面白そうだと思ったのです。
INAXには、総合職の他にショールームアドバイザーという職種もありました。女性ならではの選択肢として夢を提供するという意味では、商品を作る以外に、実際に接客をしながら、生活の夢を売るという方法もあるかなと思いました。
でも、面接のときに、君はショールームアドバイザーよりも総合職に向いている、と言われて…、そのまま総合職の採用レールに乗ることに。自分から明確に決断したわけではないんですが人の縁を感じることも多いです。
営業の経験が、広報の仕事に活きている
ここまで続けてこられて色々な苦労があったと思うんですけれども、すごく大変だったこととか、逆にこれはすごい仕事の醍醐味だ!ということがあれば教えてください。
振り返ってみるとあまり悪い思い出は浮かんでこないかな…。
山形さんは苦労を苦労だと感じないタイプなのかもしれませんね(笑)
その時はすごーく苦労だと思っているはずなのですが・・・。入社当時、営業で建築現場に私が行くと「えっ???」と思われ、なんで女が来るんだ!とすごく強い口調で言われたことが何度もあります。
また、営業として担当を持って直後くらいに、便器が流れず現場がもめた。明日が引き渡しで、どうにかしなければならない。その原因究明のために検査をする…。営業だと普通は行くだけで、自分たちがすることはあまりないのですが、その時はすごくひっ迫した状況だったので、私も検査をしなきゃいけないと思い、便器の中に手をつっこんだのです。
先輩には当たり前と言われましたけど、女の子で、入社1年目で、新しいものとはいえ便器の中に手をつっこむことに、自分としてまだ躊躇があったんです。でもやるしかない、と入れたときに、現場監督がそれを見ていて、女でもちゃんとやるんだと思ってくれたら対応が変わって、「次もINAX製品を使う」と言ってくれたんですよ。そういうことがあると、苦労も乗り越えられる気はしますね。
広報になってからはどうでしたか?
広報でも、会社でひと夜明かしたとか、ストレスで顔の発疹が出て直らないなど、体力的にも精神的にも苦労はありました。けれど、慣れていないためにインパクトのある事件が多かった入社1、2年目の営業時代がよく思い出されます。
そこで辛くて辞めてしまう人も多いですよね。営業の経験が広報の仕事に生きているという実感はありますか?
ええ、あります。広報は、その熱意と話す内容とで記事を書いて頂く、ということがあるんです。とすると、やっぱり商品を知らないよりは知っていた方が当然いいですし、愛情がないよりはあった方がいい。新卒で広報に配属されたら商品に対しての愛着も湧きにくいと思うので、そういった意味では説得力が全然違っていると思います。記者の方も、同じ20代なら営業経験者の話に信頼を置いてくださって、より懇意になれる場合もあるので、そういった意味で人脈作りでも効果的じゃないかなと思いますね。
今考えると、もう少し営業を長くやっていれば良かったなと思います。3年4年5年続けると、自分の感覚が分かって、動きやすくなる。実際には、営業と言っても代理店さんを儲けさせなければいけないので、代理店の経営戦略を練らないといけない。それが2年目ではできなかったんですよ。毎日、追われるだけで。INAXの営業本来の姿である経営コンサルティングができるようになるまで、営業を続けた方が勉強になったなと今も思います。
働き続けることを選んだ
広報に来て10年くらい経ったところで、お子さんが出来て。そこまでしっかり働いて実績を作ったという感じはありますか?
実績になっているかどうかわからないですが、自分の中である程度やることはやったなぁと…。自分が充実しない中で子育てに入ると悶々とする方もいるとは思うんですけど、自分としては区切りが付いたという気持ちはありましたね。
出産で辞めるということは考えなかったですか?
子供が出来たところでは考えなかったですね。ただ、復職しようと思ったときに、やっぱり子供が可愛いということと、日本は三歳神話が根強いので、私のエゴで働き続けて良いのかな?と思ったことはあります。
でも思いとどまったのはどうしてなんですか?
決定的な決め手になったのは、子育てをしながら働き続けている大学の同期から聞いた、自分が家で可愛がるのも一つの愛し方だけれど、保育園では先生方からも、お友達からもたくさんの愛を受けとれるんだよ、という話でした。そういう視点もあるなと思ってちょっと我慢してみたんですね。
もう一つは、娘が私にべったりな時期というのは10年とか短いスパンでしかないんですね。次には彼女の人生が広がっていく。私自身の人生を考えたときに、最後に何か残るものがあった方がいいなと思いました。幸いにも彼女は病気がちではないので、だったら続けられるところまで続けようと、今に至っています。
仕事と子育ての両立で苦労されていることはありますか?
自分では両立できているのかな?という微妙な感じです。毎日、バタバタと対処療法で一つずつ終わらせながら前に進んでいる印象なので、両立っていうイメージは全くない。
育休はどれくらい取得されたんですか?
育休は子供が生まれて産休が終った後の1年間。私達の時はまだ1年だったので、1歳をちょっと過ぎたところで保育園に。その後、育児短時間制度を2年くらいとりました。後半は時短とは言えない状況でしたが・・・。
お母様が専業主婦でいらっしゃったとありますけど、自分がずっと仕事をやり続けると最初から思っていましたか?
入社のときには、一生働き続けますか?と聞かれて「はい。」と答えました。でも、身近な女性としては母がモデルケースなので、一つの選択方法として結婚して家庭に入ることも考えなくはなかった。それが続いているのは、絶対こうしなくちゃ!という、思い込みがあまりなかったのが良かったのかもしれません。
そうなんですね。仕事を続けてる女性は「しなやかさ」がありますね。
働く母はしなやかです、すごく。右に風が吹けば柳のように右に、左に吹けば左に。ただ全部が動いているかというと、自分の思いという芯は残しつつ揺れながら自己実現しているという感じですかね。
それは素敵な生き方ですよね。
両立しなくちゃと思いすぎたら、多分両立できないと思うんですよね。自分が仕事に対してどこまでやるか、何を成果として求めるかをある程度決めて、それに向かって進む。一方で、子供のお迎えの時間など、否応なしにしなければならないことは決まっているので、それと自分の仕事との折り合いをつけることがが必要だと思うんですね。両立を考えるより、将来子供が手を離れたときに、次の仕事に繋げるために今どのような経験とスキルを身につけなければならないのかを考えることが大事なのではないかと思います。
先のことを見据えて、お仕事をされているんですね。
今忙しい!大変!ではなくて、それは「一時期」と割り切る。割り切れないから「辞めちゃおう」って思う方もいらっしゃるかもしれないですけど、今働きながら子育てを続けている女性たちは多分そうやってどこかで割り切って続けようとしていると思いますね。
そういう視点があるといいですね。とりあえず今だけ!って思えればいいですよね。
実際にそうだと思います。私は、年代の違い、異性などを含めた立ち位置の違いなどいろいろな立場、視野をもつ友だちを持つことで、そう考えることができた。そういう先輩がいなかったら、先が見えなくて落ち込んで辞めちゃおうかなって思っていたかもしれない。そういう契機を自分のアンテナでキャッチできるような心の持ち方をしたいと思います。
学生さんへのメッセージ
学生さんにメッセージをお願いします。
人が好きで、人との関わりの中で自分を成長させたい、自己実現したいを思う人であればどんな状況でも乗り越えて行けると思います。INAXに限らず、見た目の部分と、中に入ってみて知る部分、知る苦労はあって当然ですから、明るく前向きにチャレンジしてみてください。必ず、社会人として通用するはずです。住設業界は、地味ですけど人の役に立てるところがあるので、それを喜びに感じられる人でしたら、ショールームアドバイザーでも営業でもやっていけると思います。
また、夢を持って門を叩いた新入社員の時の思いを大切にして欲しいです。実際は、その実現がかなり困難なものであっても、「念ずれば通ず」、必ず道拓けると思います。INAXには「仕事を通して社会に貢献し、生きがいを見出す生活舞台です」という企業理念X1があります。人には、人それぞれの舞台があっていいと思うんですね。
わかりました。最後に、二十歳の頃の自分に言っておきたいことを聞かせてください。
人生の目標、自分が何をやりたいか、最終的に自分はどういう人間になっていたいのかということを若いうちからもっと明確に探し続けなさいということを言ってあげたいですね。
そうですね。就職活動中の学生さんには、人生の目標を考えて仕事を選んでほしいですね。今日は貴重なお話をありがとうございました。
インタビューを終えて( ハナジョブスタッフ)
子育ても大事だけれど、将来を考えて仕事を続けることを選んだ、山形さん。まだ結婚も出産もしていないハナジョ(ハナジョブ会員)ですが、やはり子育てと仕事の両立ができるかどうかは大きな関心がありますよね。ある時期は割り切ることも大事。そこで我慢することによって、その先、大きなものを手にできるのだと思います。目の前のことだけでなく、先を見据えて自分の将来を考えるようになりたいですね。
企画・マーケティングという仕事
「マーケティング」とは、簡単に言うと「商品やサービスを売るための仕組みづくり」のことです。商品やサービスの企画・開発、市場調査・分析、価格設定、宣伝・広報、ブランディング、流通、店舗などの設計、集客、販売など、商品やサービスを作ってお客様に届けるまでのすべての活動が「マーケティング」です。
山形さんは、システムバスルームをどのようなコンセプトで訴求し、市場認知させるのかを考える、販売促進の企画を担当しています。
具体的には、商品戦略を社内に浸透させたり、チラシやグッズなどの販促物を作ったりする仕事で、「マーケティング」のうち、宣伝やブランディングにあたります。