宇宙放射線研究を日本の有人宇宙開発の強みに(JAXA)

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誰もが夢を見、希望を抱く、宇宙開発の第一線で働かれている永松さん。宇宙開発に携わりたいという思いの原点は、小学生の時に訪れた種子島だったそうです。夢を夢で終わらせず、日本の「宇宙放射線計測分野」の博士号取得者の第1号となった永松さんに、貴重なお話を伺いました。(2010年12月時点の情報です)

小学生時代の「将来の夢」から現実の「仕事」へ。そこに秘められた思いとは。

お仕事内容を教えてください。

有人宇宙技術を支える基盤技術である宇宙放射線計測を担当しています。国際宇宙ステーションが飛行する高度約400kmの船内の最大の特徴は、微小重力と宇宙放射線による被ばくです。JAXAが開発したPADLES(パドレス)という線量計を使って被ばく線量の計測をします。

宇宙飛行士はこの線量計を身につけて搭乗し、宇宙滞在中に浴びた宇宙放射線による人体への被ばく線量を計測しています。次のフライトでどのくらい宇宙に滞在できるのかを割り出す被ばく管理に必要なデータとなります。

国際宇宙ステーションの環境には、人体に影響する宇宙放射線源が3種類(銀河宇宙線、太陽粒子線、捕捉粒子線)あって、これらの宇宙放射線が通過すると、飛跡に沿ってプラスチックに小さな穴ができるんですね。

帰還後にこのプラスチックの板を化学溶液で溶出して穴を大きく広げ、光学顕微鏡を使って画像解析をすることで、宇宙飛行士が浴びた放射線の量を割り出すことが出来るんです。この技術は日本が開発した技術で、現在では国際宇宙ステーションでの被ばく線量を計測する共通技術となっています。

宇宙放射線計測に関する研究の他に、「きぼう」日本実験棟で実施する実験の科学調整などを同時進行で担当しています。年に1~2回は国際会議に出席し、国際パートナーとの実験協力について話し合います。

今までの仕事について教えてください。

1年目は宇宙利用実験に関するプロジェクト予算執行管理に携わり、実験費用の管理から折衝、物品購入や伝票管理まで予算に関する仕事を幅広く行っていました。2年目からは、遺伝子組み換え実験委員会の事務局や放射線従事者の管理作業と、植物研究の企画を立ち上げる仕事をしました。

この研究は、植物は重力の無い宇宙でどのように育つのか、植物が重力を感受する遺伝子のしくみを解明するための実験です。ゼロからの立ち上げだったので、始めは研究に必要な消耗品の買い付けなどの地道な作業からのスタートでした。

4、5年目からは今の宇宙放射線計測に関する仕事が主要な業務となりました。担当したばかりの頃は、全く知識がなかったのですが、日本の宇宙放射線に関する機関(早稲田大学、高エネルギー加速器研究機構、放射線医学総合研究所)との協力・ご指導のおかげでもあり、2006年には、線量計の自動解析システムの構築とそのの測定精度がもっとも優れた線量計として評価をうけました。日本の放射線研究や画像解析に関する研究分野の底力、質の高さが実証した成果となりました。

「宇宙放射線計測分野」の博士号取得者の第1号、その苦労とやりがいとは?

宇宙開発に興味を持ったのはいつごろ、どのようなきっかけだったのですか。

最初に宇宙について興味を持ったのは小学校低学年の時、両親と一緒に種子島を訪れたことがきっかけでした。種子島には、JAXAの宇宙センターがあります。そこで実際に宇宙開発の現場を見ることができたのは、とても貴重な体験でしたね。小学4年生の時に、日本人初の3人の宇宙飛行士が選抜されたことも、さらに宇宙への興味を強めた大きなきっかけです。その中でも向井宇宙飛行士が担当するライフサイエンスに興味を抱くようになりました。

中学生の頃には、宇宙に関する新聞記事のスクラップを集めながら知識を深めて行きましたね。このスクラップが地元の新聞社に取り上げられたことがきっかけで、中学生の頃に向井宇宙飛行士と毛利宇宙飛行士にお会いすることができたのです。直接的に宇宙開発に携われなくても、民間企業を介して宇宙食を作ったり、ロケットに搭載する機械を作ったり、宇宙開発に携わる方法はたくさんあると知っていたので、どんな形でも夢は叶えたいと思っていました。

では今の仕事のやりがいと苦労を教えてください。

国際宇宙ステーションに搭乗している宇宙飛行士が開発したPADLES線量計を持っているのをリアルタイムで中継される映像を見るとき、嬉しく思いますね。自分たちの仕事が、宇宙飛行士やプロジェクト全体に繋がっていると感じる瞬間です。

これまでに、船内の宇宙環境の最大の特徴である、微小重力に関する重力生物学研究と、宇宙放射線に関する研究の両方が経験できて、とてもラッキーだと思います。そして日本の代表的な放射線研究機関や共同研究者の方々をふくめ、仲間に恵まれたことも感謝しています。

宇宙放射線研究の立ち上げから携わっているので、この分野が有人宇宙技術の発展とともに着実に育っているという充実感があります。国際宇宙ステーションを超えた月面・火星を含む次世代有人技術開発では、遮蔽や防護技術を含むこの宇宙放射線研究・技術開発が、最も主要な分野のひとつとなります。この分野がますます発展することが楽しみであると同時に、日本の宇宙機関が担うこの分野における役割の重要性も感じています。

家庭との両立はどのように行っているのですか?

24時間の保育園を利用しています。私たちが研究に利用している放射線加速器は、昼間はがん治療に使われ、深夜の時間帯のみに実験に使用する時間的な制約があります。特に研究の立ち上げ当初は、深夜に実験して朝の8時、9時に帰ってくることが週1~2回ありました。主人も長期出張などで不在が多いので、その時の保育園の助けは本当に大きかったです。

「きぼう」日本実験棟で実施する実験の科学調整のために、他の宇宙機関とテレビ電話やテレコンを使った打ち合わせをしなければならないことも週1~2回あります。当然時差の関係で深夜対応になってしまうのですが、この仕事は自宅から参加できるように配慮をいただいています。土日は基本的に休みなので保育園の行事や子供たちの習い事に一緒に行ったりして過ごしています。毎日帰宅が遅くて大変なこともありますが、夫の理解と子供たちが「お母さん頑張って」と応援してくれるからこそ、頑張ることができていますね。

出産当時、産休、育休はどのようにとられたのですか?

私が出産をした当時は、国際宇宙ステーションの日本の実験モジュール「きぼう」の搭載が目前に控えており、産後の産休のみの取得でした。育児休暇が制度が成立する前の日本では、誰もが生後6~8週で復帰せざるを得なかったので、あらためて次世代育成支援のための制度の充実や制度の取得しやすい環境づくりの必要性を感じました。

JAXAでも産休、育休の制度や時短制度も充実してきています。出産を経験した女性が増えると情報交換もしやすくなるので、とても安心ですね。パパママが活躍しやすい職場環境が充実できればいいとと思います。

永松さんにとって仕事とは何ですか。

生きがいであり、目標です。子供たちも応援してくれているので頑張ろうと思います。子供の応援が一番のモチベーションになりますね。職場の理解、家族の協力があって働けているということをいつも感謝するようにしています。

これからの目標はありますか。

宇宙放射線の研究をさらに深めて、日本が得意な有人宇宙技術と言えば宇宙放射線計測と言われるようにしたいです。国際宇宙ステーションで得た成果を生かして、次世代有人開発では、この分野を日本の宇宙開発の強みにしたいですね。機会があれば月面有人開発に携わってみたいとも思っています。

同じ職業を目指す学生へメッセージをお願いします。

宇宙開発の分野では、女性のエンジニアがもっともっと活躍できる場が生み出せるたくさんの可能性を秘めた場所で、宇宙開発も幅広い分野があります。柔軟で広い視野をもって、この分野に飛び込んできてほしいです。私自身も、女性が出産をしても子供を持ちながらでも働きやすい職場環境を作っていきたいと思っています。

人生の先輩としてのアドバイスをお願いします。

自分がやってみたいと思うことは、自ら主体的に動き出すこと!諦める前にまずは行動を起こしてほしいです。

インタビューを終えて( 学生記者:鈴木結依)

小学生の時の夢を叶えた永松さんのお話を伺い、自分のやりたいことに対して常にひたむきであることの大切さを感じました。2人のお子さんを持ちながらも宇宙開発の第一線を走り続けるには大変な苦労があると思います。それでもがんばれるのは子供の応援があるから、という言葉が胸に響きました。永松さん、お忙しい中ありがとうございました!

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About Author

ハナジョブ学生記者

2008年〜2012年までの学生記者たち

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